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救急・その他

外傷


防ぎえた外傷死

平成19年の厚生労働省人口動態統計によれば、1年間の日本人全体の死亡数は約108万人です。死因別では、1位悪性新生物、2位心疾患、3位脳血管疾患、4位肺炎、5位不慮の事故となっています。ところが、年齢別に死因をみると、1歳から30歳では不慮の事故の割合が第1位という結果であり、外因性疾患が、将来ある若者や、働き盛りの青壮年の命を奪う主な要因となっています(図1)。また最近の調査研究では、不慮の事故死の中には、外傷発生から病院搬送後に適切な診断、処置が施されていれば救えたはずの死亡、いわゆる「防ぎえた外傷死」が約30%含まれていたとされています。
  死亡原因
  1位 2位 3位 4位 5位
全年齢 悪性新生物 心疾患 脳血管疾患 肺炎 不慮の事故
0歳 先天奇形など 呼吸障害等 乳幼児突然死 不慮の事故 出血性障害
1~4歳 不慮の事故 先天奇形など 悪性新生物 心疾患 心疾患
5~9歳 不慮の事故 悪性新生物 肺炎 先天奇形など 心疾患
10~14歳 不慮の事故 悪性新生物 自殺 心疾患 先天奇形など
15~19歳 不慮の事故 自殺 悪性新生物 心疾患 先天奇形など
20~24歳 自殺 不慮の事故 悪性新生物 心疾患 脳血管疾患
25~29歳 自殺 不慮の事故 悪性新生物 心疾患 脳血管疾患
30~24歳 自殺 悪性新生物 不慮の事故 心疾患 脳血管疾患
35~39歳 自殺 悪性新生物 心疾患 不慮の事故 脳血管疾患

図1

外傷診療システム

「防ぎえた外傷死」を可能な限り避けるために、病院前、病院後で、様々な取組みが行われています。高エネルギー事故(図2)などによる死亡には、時間経過の観点からいくつかのピークがあるとされます。第1のピークは受傷直後の頭部の不可逆的損傷、心大血管の破裂で、即死または数分で死亡してしまいます。第2は受傷後2-3時間で死亡する例で、その原因疾患として、緊張性気胸、心タンポナーデ、胸腔内、腹腔内への大量出血、頭蓋内出血が挙げられます。外傷初期診療の最初の目標は、この第2ピークの死亡を防ぐこと、すなわち生命が存続している状態で病院に搬送されてきた傷病者の死を避けることにあります。そのために我が国では日本外傷学会、日本救急医学会が中心となって、外傷診療の質の向上、標準化を図るためのプログラムJapan Advanced Trauma Evaluation and Care(JATEC)が2002年に策定されました。

高エネルギー事故と考えられる受傷機転
●車が高度に損傷している
●自動車と歩行者の衝突
●車から放り出された
●機械器具に挟まれた
●車に轢かれた
●体幹部が挟まれた
●5m以上跳ね飛ばされた
●高所からの墜落

図2

JATECの実際

外傷による重症者に対しては、まず生命維持のための生理機能を迅速に評価し、必要な治療を直ちに開始します。この手順を「プライマリーサーベイ」と呼び、A:気道、B:呼吸、C:循環の順に評価します。それぞれの段階で異常があれば、気道確保や胸部外傷に対する処置、輸血などを行い、極めて迅速にABCの安定化を図ります。引き続き、生命を脅かす頭部外傷に対する治療に取り掛かります。さらに、全身の保温をすることも初期診療において重要です。JATECでは、このようにステップ毎の問題を解決してから、次の診療を素早く進めていくことが重要です。生命の安全を確保した上で、身体全体を系統的に検索し、根本的治療の必要性を診断することを「セカンダリーサーベイ」と呼びます。解剖学的な異常に対して、本格的な診断を行っていく過程であり、必要にして十分な診察を手際よく行います。状態に応じてレントゲン、CTなどの画像診断もなされます。なおセカンダリーサーベイの間も、スピードは重要です。またバイタルサインの継続した観察も行います。当院の救急外来においても、重症外傷者が搬送されて来た場合、救急部医師や各科医師は、JATECの手順に則った救命処置を直ちに開始して、治療を行っていきます(図3)。

図3

図3