先天性股関節脱臼の原因と予防運動の歴史、およびベビースリングのもつ危険性


                               整形外科 藤井 敏男

先天性股関節脱臼のほとんどの症例は、”先天性”に“関節弛緩”がある不安定な股関節に対して、周産期に股関節の安定性に不利な“なんらかの外力”が作用し股関節が脱臼するものである。一方、少数ではあるが生下時すでに高度の股関節脱臼があり、真の“先天性”股関節脱臼というべき症例も存在する。これらは 先天性多発性関節拘縮症arthrogryposis multiplex congenita、Larsen症候群や Ehlers-Danlos症候群などの先天異常を合併していることが多く、これを奇形性股関節脱臼 teratologic dislocation という。近年、完全な脱臼にはいたらずに亜脱臼状態で経過するものや、求心性は良いが臼蓋形成不全のみを認める例、などの病態が明確に画像診断できるようになったこともあり、これらを総称して英語圏では「Developmental Dysplasia of the Hip (DDH)」と呼んでいる。
新生児は出生時の産道通過が容易になるように全身の関節が生理的に弛緩している。ほとんどの児ではこの関節弛緩は生後まもなく自然消失するが、なかには関節弛緩が比較的長期に持続する児が存在し、これは体質的なもので家族内発生が多いが、それ自身は病的状態ではない。このような関節弛緩が強いと不安定な股関節になりやすく、それに対して周産期に股関節の安定性に不利な“何らかの外力”が作用し脱臼が成立する。

すなわち、股関節脱臼は胎内肢位が下肢伸展位で骨盤位分娩例の児に多発する。また、かっては冬期出産例や、ラップランド、北イタリア、アメリカ高地インディアンや日本の東北地方などの寒冷地で巻おむつなどで下肢を伸展位に保持する育児習慣(図1、2)がある地区に多発した。わが国の発生頻度は1970年頃までは新生児の約1%と高かったが、70年代から始まった先天性股関節予防運動の結果80年代には発生率が約0.3%と著しく減少した。脱臼予防運動とは下肢伸展位を強制するおむつや、おむつカバーなどを改良し、新生児、乳児が股関節を開排位に保ちやすく、また自由に下肢を動かし易くする育児法である (図3)。

発生機序には腸腰筋と膝屈筋群(ハムストリング)の過緊張が重要な役割を果たしている(図3)。 これは実験的に生下時のラットの膝関節を伸展位に固定すると股関節に直接外力を加えることなく成長とともに自然に股関節が脱臼することと、一方、膝関節を進展に固定してもハムストリングを切離しておくと股関節脱臼が発生しないことから証明されている(図5,6)。

最近流行しているベビースリングは、まだ首がすわっていない生後3ヶ月未満の赤ちゃんに使用するときに、「よこ抱き」や「バナナ抱き」のように下肢を伸展した形で使用すると、上記のように股関節脱臼を誘発する肢位になり危険である。もしベビースリングを生後3ヶ月未満の赤ちゃんに使用するときには、赤ちゃんの股関節が開排位になるように母親のおなかをまたぐように股関節を広げる「正しい」使用法をする必要がある。

 (図1)  

 (図2)

 (図3)

 (図4)

 (図5)

 (図6)