各論




1 血尿・蛋白尿症候群

定義:無自覚性で腎疾患の臨床症状がなく、尿所見のみを唯一の臨床所見とする無症候性血尿および蛋白尿のもの。 尿所見で蛋白尿の程度の強いものや、円柱尿(赤血球円柱、顆粒円柱など)を認める場合には腎炎の存在が考えられ、注意深い観察と指導が重要である。
症状:症状は通常見られない。検査によって初めて異常所見に気づく。
治療:血尿のみの場合には必要のないものが大部分であるが、蛋白尿の場合には経過により投薬が必要となることがある。
運動指導:腎臓病管理指導表に従って、生活管理を行うが、不安を与えぬよう、できるだけ正常の生活をさせる。
食事:食事療法の必要性のないものが大部分である。

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2 ネフローゼ症候群

定義:高度の蛋白尿と低蛋白血症を伴う腎疾患である。診断基準を示す。

      表12    小児ネフローゼ症候群の診断基準

  1. 蛋白尿:1日の尿蛋白量は3.5g以上ないし0.1g/kg/日以上。
    または早朝起床時第一尿で300mg/100ml以上の蛋白尿が持続する。
  2. 低蛋白血症
    血清総蛋白量として、血清アルブミン量として
    1. 学童、幼児 6.0g/100ml以下 学童、幼児 3.0g/100ml以下
    2. 乳児 5.5g/100ml以下、 乳児 2.5g/100ml以下
  3. 高脂血症
    血清総コレステロール量として
    1. 学童 250mg/100ml以上
    2. 幼児 220mg/100ml以上
    3. 乳児 200mg/100ml以上
  4. 浮腫

<注>
1.蛋白尿、低蛋白(アルブミン)血症は、本症候群診断のための必須条件である。
2.高脂血症、浮腫は本症候群診断のための必須条件ではないが、これを認めれば、その診断はより確実となる。
3.蛋白尿の持続とは3〜5日以上をいう。
上田 泰、厚生省特定疾患ネフローゼ症候群調査研究班、昭和48年度研究業績集 1974

症状:浮腫、乏尿、体重増加、腹部膨満、呼吸困難、腹痛、下痢など。
治療:浮腫・体重増加を伴う急性期は入院加療とする。減塩食や水分管理といった食事療法に加え、副腎皮質ホルモン剤を中心とする免疫抑制剤により治療する。小児のネフローゼ症候群は治療に反応するものが多いが、再発・再燃するものも多い(7割)。このため、患児は毎朝、尿の検査を自宅で行っている。一方で思春期になると9割のものは再発をおこさなくなるので、必ず良くなると信じて、希望を持たせ、励ますことが大切。再発を繰り返している間も社会性を維持させ、自立心を持たせるよう、患児・家族を指導することが大切。治療抵抗性の場合には、重篤な腎炎のこともあり、予後不良のことも少なくない。この場合には慢性腎炎の治療・指導を行う。

入院中の生活の指標を示します。

表13 急性腎不全・ネフローゼ症候群の食事療法および安静度基準表

病 期 急性期 固定期 回復期 治癒期
所 見 浮腫なし 尿量増加、血圧正常 浮腫、乏尿、高血圧 検尿正常
蛋白尿、肉眼的血尿 浮腫↓、蛋白尿↓ 蛋白尿なし 血液生化学正常
BUN↑、クレアチニン、 BUN↓、クレアチニン↓、 血清蛋白正常 赤沈正常
低蛋白血症 総蛋白↑、アルブミン↑
食 事 腎炎食(蛋白制限 強) 腎炎食(蛋白制限 中) 腎炎食(蛋白制限 軽) 普通食
ネフローゼ食 ネフローゼ食 ネフローゼ食
(食塩0g) (食塩3g) (食塩5g) (食塩8g)
水 分 前日尿量 前日尿量+不感蒸泄量 制限なし 制限なし
生 活 ベッド上安静 昼の安静時はベッド上 院内学級可 外来通院
排尿、排便もベッドで 排尿、排便はトイレで 食事は食堂 (水泳マラソンは中止)
全身清拭 全身清拭、洗髪 入浴可
ベッド上で勉強

合併症:急性期(初発時・再発時)でむくみなどがある場合にはショック(循環障害)、起立性低血圧、重症感染症(腹膜炎、肺炎など)などが起こりうる。
運動指導:腎臓病管理指導表に従って行う。長期にステロイド治療を行っている場合には骨粗鬆症が進行してくるため、尿所見よりも強い制限となることがある。骨粗鬆症がある場合は特に、ジャンプや飛び降りに注意する。
食事指導:外来治療中については、制限はほとんど必要としない。薬により空腹感が強いため、カロリーの過剰接種に気をつけておく。
流行性疾患:感冒などの罹患によりネフローゼの再発をおこすことが多い。けがや虫刺されなども再発のきっかけとなりうる。
免疫抑制剤内服中は麻疹・水痘に罹患した場合には生命の危険を伴う重症型となることがある。麻疹・水痘児と接触した(クラス内で発生した)場合にはすみやかな対処が必要であるため、保護者・病院へ連絡が必要。学校内で発生した場合も発生状況を保護者へ連絡を。

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3 慢性腎炎

定義:慢性の経過にて次第に腎機能が低下することのある腎疾患で、いくつかの病型がある。

表14
確定診断名 予後 備考
原発性 良性家族性血尿 良好
遺伝性腎炎 不良 難聴
メサンギウム増殖性腎炎 不定
IgA腎症 不定
膜性腎症 良好
膜性増殖性腎炎 不良 低補体血症
巣状糸球体硬化症 不良
二次性 紫斑病性腎炎 不定 紫斑
ループス腎炎 不定 SLE

小児科・学校保健マニュアル 前川喜平、木島昂監修より

症状:当初は血尿や蛋白尿のみで症状がなく、潜在性に進行することも多い。腎機能の低下とともに高血圧や浮腫が認められるようになる。慢性の経過であるために小児期にはほとんど自覚症状のない場合も多く、放置されやすい傾向にある。進行した場合には、浮腫や高血圧を認める。急性増悪時には入院加療が必要である。
付:慢性腎炎の多くは学校検尿にて発見される。学校検尿で蛋白尿を指摘された場合や、「早期要精密検査(福岡市)」対象となった場合は活動性が強い可能性がある。きちんと受診をしたかどうか確認を。
治療:腎炎の種類、程度により治療法は様々である。軽症の場合、抗凝固剤のみの投与であることもあれば、さらに降圧剤を加えた治療となっていることもある。疾患の活動性が高いと判断された場合には、免疫抑制剤を中心とした治療が行われる。
運動指導:腎臓病管理指導表による。症状のない状態での管理指導を適切(決して過剰に行ってはならない)に行う。
食事指導:多くは学校給食の制限はない。蛋白尿が多い場合、腎炎の活動性が強い場合に蛋白制限や塩分制限がある場合がある。こどもにとって発育に必要な蛋白を制限しすぎないように注意する。また、水分摂取については多くの場合は制限がないだけでなく、摂取不足になると脱水により腎機能の悪化をきたす場合があるので注意。
流行性疾患:感冒などにより疾患活動性があがり、肉眼的血尿をきたしたり浮腫を生じたりする場合がある。腎不全に至る場合もある。
免疫抑制剤内服中は麻疹・水痘に罹患した場合には生命の危険を伴う重症型となることがある。麻疹・水痘児と接触した(クラス内で発生した)場合にはすみやかな対処が必要であるため、保護者・病院へ連絡が必要。学校内で発生した場合も発生状況を保護者へ連絡を。
慢性の感染をおこしているような場合も、腎炎が進行するため、慢性扁桃炎、副鼻腔炎、虫歯などにも注意するよう指導を。

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4 急性糸球体腎炎

定義:血尿、蛋白尿、乏尿、高血圧および浮腫などの症状で急激に発症する。成因の多くは溶連菌感染で感染1〜3週後に上記の症状を伴い急性に発症する。適切な治療により、95%以上は完全治癒が見込まれる疾患である。ほとんどの場合6〜12か月で尿所見は消失する。
治療:乏尿、浮腫、高血圧を認める場合には入院加療。病初期には利尿剤、降圧剤、抗生剤などによる薬物療法と食事療法を行う。軽症の場合には外来にて経過観察。
合併症:高血圧性脳症、肺水腫、心不全を病初期に合併することがある。
運動指導:管理指導表による。尿所見消失から3か月程度で完全に制限を解除する。
食事療法:入院中は減塩食、低蛋白食、水分管理を行う。外来では軽症の場合の病初期に塩分をひかえる他は、制限の必要はほとんどない。

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5 その他の疾患

5-1 全身性エリテマトーデス(ループス腎炎)

 日光過敏がある場合が多く、夏でも長袖着用を指導。また、つばの広い帽子をかぶる。
 運動会はテント内。できれば室内がよい。遠足も、往復は車での移動とし、目的地でも直射日光をできるだけさける。

5-2 紫斑病性腎炎

 アレルギー性紫斑病に伴って起こる腎炎である。紫斑病では、四肢の出血斑と、腹痛、関節痛をきたす疾患である。およそ半数に腎炎が合併。腎炎のタイプはIgA腎症と同様である。風邪などにより活動性が強まるので注意する。

5-3 尿路感染症・先天性尿路疾患

 発熱時には尿路感染症をおこしている可能性があるため、尿検査を受けるようにする。腎機能低下により尿の濃縮力が弱い場合には容易に脱水傾向となるので、水分補給が重要である。

5-4 腎不全

保存期腎不全 保存期の場合は食事制限がかなり厳しい。塩分は制限されている場合と、一定量が必要な場合がある。運動も制約されることが多い。発熱などにより容易に脱水となり、全身状態の悪化をきたしやすい。

末期腎不全(透析) 透析中も食事療法を受けているため、塩分やカリウムの量の制限がある。血液透析の場合は腕に血管吻合(シャント)を作っている。打撲などによる出血に注意。腹膜透析の場合は、腹壁に透析用カテーテルが留置されている。汚染や破損に注意。

5-5 溶血性尿毒症症候群(HUS)

 O157:H7大腸菌が作るベロ毒素により、出血性腸炎をきたし、それに引き続いて、溶血性貧血、血小板減少、腎不全をきたす。一部の患者では脳症をきたす。
 約10%の出血性腸炎患者がHUSをおこし、その半数は透析を必要とする。急性期を乗り越えた場合には、多くは後遺症なく回復し、生活規制も半年程度で解消できることが多い。

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おわりに

 以前は長期欠席児童の原因の一位が腎疾患でしたが、今日では腎疾患の病態の解明が進むとともに治療も進歩し、長期入院の児は少なくなっています。その分、学校へ通いながら治療を受けているこども達が増加しています。長期間腎臓病に苦しむこども達がすこしでも「友達と同じステージでの生活」をおくれるようにしてあげることは、予後の良い場合の社会性の維持、病気であるという負の意識からくる無気力の防止だけでなく、予後が悪い場合であっても、心身の発育にとって重要な意義があると考えます。
 病気をかかえた子ども達の指導には、いろいろと苦労があると思います。担任・養護の先生をはじめ先生方の児童生徒の指導の手助けとしてこの資料を生かしていただければ幸いです。学校の中での対応は、担任・養護の先生だけでなく、他の先生方の協力体制も大変重要なポイントです。まわりの先生方への協力をお願いする場合の資料としてもお役に立てるのではないかと思います。

 この資料は、今後皆様のご意見を元に改訂を行ってゆく予定です。気づかれたことがございましたらご意見をお寄せ下さい。
 腎臓病の子ども達が安心して学校生活をおくれるよう、子ども達のご指導をよろしくお願いいたします。

 福岡市立こども病院では腎臓病のこどもたちの総合的な診療をおこなうため、家族会(そらまめ会)、学校連絡会を定期的に行っています。関係者の連携によって腎臓病のこどもをとりまく環境をすこしでも良いものにできればと考えています。これらの会の開催に当たりましては、御連絡を差し上げますので、よろしければご参加下さい。

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参考資料

腎臓手帳 −児童・生徒用− 財団法人 日本学校保健会編
小児科・学校保健マニュアル 前川喜平、木島昂監修 診断と治療社
小児メディカルチェックと運動指導の実際 大国真彦編著 文光堂
腎疾患患者の生活指導・食事療法に関するガイドライン 日本腎臓学会




腎臓病児の学校生活指導のポイント Web版(第2版 2刷 平成12年9月19日より)
平成13年12月29日

福岡市立こども病院・感染症センター「そらまめ会」編集
問い合わせ先:〒810-0063福岡市立こども病院「そらまめ会」 092-713-3361(6F病棟)


「そらまめ会」について

この会は、福岡市立こども病院感染症センターの医師、看護婦、栄養士などのボランティアによって組織され、病院からの後援を受けて活動しています。
腎臓病を持った子ども達とその家族への腎臓病をめぐる様々な情報を提供する勉強会の開催をおこない、長期の慢性疾患に悩む患児・家族へ、よりよい治療が行われるよう活動しています。
また、患者家族会としては、これとは別に「ジャックと豆の木」が福岡地区の小児の腎臓病を持った子ども達の患者家族会として結成されています。

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